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孤譚

思いつきで始めるブログ。漫画や音楽、アニメ、小説などの感想や、突飛な思いつきなどを書く。プログラミングが趣味だから、そういう話もしたいところ。一度失敗したのに懲りないのはいつものことだ。

田舎者目黒駅から下車す ~「目黒寄生虫館」と「気仙沼と、東日本大震災の記憶」を見に行った話~

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田舎者目黒駅から下車す ~「目黒寄生虫館」と「気仙沼と、東日本大震災の記憶」を見に行った話~

目黒寄生虫館前
目黒寄生虫館前
目黒区美術館
目黒区美術館

「気仙沼と、東日本大震災の記憶」開催中

はじめに

 下旬、私は電車を乗り継いで目黒駅を降りた。かの有名な「目黒寄生虫館」を見学するためだ。何度もその存在を耳にすることはあったのだが、大学進学のために上京してから数年、何となく行かずに日々をぼんやりと過ごしていた。しかし、その日は妙にやる気に満ちていたため、思い立ったが吉日ということで遥々目黒にまで足を運んだのである。 当記事では「目黒寄生虫館」とその後に立ち寄った「目黒区美術館」を見学した感想を述べる。

目次


目黒寄生虫館

 生物や珍奇なものに興味があれば、自然と寄生虫に興味を抱くものだ。そうなると、目黒寄生虫館の話をよく耳にするようになる。しかし、行こう行こうと思っていた目黒寄生虫館を初めて訪れたのは結局この日になってからのことだった。目黒寄生虫館の展示情報によれば、「生きているロイコクロリジウム」を展示していたこともあったそうだ。面倒くさがらずに早く行けばよかったのかもしれない。

 目黒寄生虫館は様々な種類の寄生虫についての情報を掲載している。人に寄生する寄生虫だけでなく、人以外の魚類や哺乳類などに寄生する生物の情報も豊富である。 寄生虫の生活サイクルを解説するパネルなどがあり、その中にはかの有名なカタツムリや鳥の寄生虫であるロイコクロリジウムを紹介するものもあった。 寄生虫の標本も数多く展示されていた。寄生虫そのものや、寄生虫のついた腸の断片がホルマリンの中に浮いた状態で展示されているのである。このような標本を見れば、寄生虫の生きていたときの姿を如実に想像することができよう。 驚いたことにシーラカンスに寄生していた生物の標本というものまであった。読売ランドの企画か何かでシーラカンスの寄生虫の調査を行ったのだという。 クジラやカジキに寄生するペンネラやムササビの大腸に寄生していたムササビ蟯虫、魚の目のところに寄生するメダマイカリムシ、サケ科の魚の鰓に寄生する貝・カワシンジュガイ (今は絶滅危惧種らしい) などは、ここの標本で初めてその存在を知り、なかなか面白く感じた。 また、その日に開催されていた写真展「ダイバーがとらえた寄生虫たち 2」では、ダイバーが撮影した海の生物とその寄生虫の写真が展示されていた。海の中で生きた状態で撮影できたということは、当然ながら生物の表皮に取り付く種類の寄生虫の展示ということになる。鮮明で大きな写真に宿主や寄生虫が生きた状態で写っているというのはなかなか新鮮なものを感じた。 撮影されていたのはウオノエやウミクワガタなどである。ウミクワガタの幼生は魚類などに寄生するそうだ。小さな生物が魚などにひっついているのは想像がつくが、写真の中で平然とした顔で泳いでいる魚に結構な大きさのウオノエがくっついているのを見るのは、やはり奇妙な心地がした。魚からすれば絶対に邪魔だろうが、自力で取り除くことは不可能なのだろう。

北斎漫画に描かれた陰嚢水腫
北斎漫画

国立国会図書館デジタルコレクション - 北斎漫画. 12編」より引用

 魚などの寄生虫も面白くはあるのだが、やはり強烈に印象に残ったのは人に寄生する生物の話だった。標本とともに実際の症例の写真も併せて掲載されており、その病魔の毒々しさは痛烈に目に焼き付くものであった。ホルマリンの中を漂う動物の胃の断片には、いくつもの細長い寄生虫が生えているかのように突き刺さっていた。 2015年のノーベル医学生理学賞は寄生虫の病気の治療薬に関するものであったが、目黒寄生虫館ではそれに関係する情報も追加で展示されていた。 ウシなどの肝臓に寄生する肝蛭や、有鉤条虫の幼虫が体内を移動することによる有鉤嚢虫症、悪名高き日本住血吸虫、ブユによって媒介される回旋糸状虫の引き起こす河川盲目症など、目を引く様々な展示がある中で、最も印象に残ったのがバンクロフト糸状虫の引き起こす病気に関する展示である。 この寄生虫は蚊が媒介するのだが、ヒトに寄生すると下半身のリンパ管を破壊して水腫を引き起こす。リンパ管が破壊されて循環機能に異常を来たすのだろう、リンパ液が溜まって下半身が膨れ上がるのだが、それが陰嚢で起こると陰嚢水腫になるのである。葛飾北斎の北斎漫画にも描かれているその症例を説明する写真は、今までに見たことのないくらいに奇妙さを感じるものであった。

 寄生虫はその生態の奇天烈さから魅力を感じさせるものであり、また、畜産や漁業などの産業面への悪影響や強烈な病魔をもたらす存在でもある。目黒寄生虫館の展示は、寄生虫関連の研究の面白さと重要性を再認識させるものであった。

気仙沼と、東日本大震災の記憶

 目黒駅に行って初めて知ったのだが、この付近は教育関係の施設が多いようだ。前述の目黒寄生虫館だけでなく、久米美術館や伊東昭義美術館など、興味深い施設が複数存在する。目黒寄生虫館に行った帰り、目黒区美術館というものを見つけ、ついでに覗いてみようと思って立ち寄った。気がつくと本命よりも時間をかけて見学していた。

 目黒区美術館では「気仙沼と、東日本大震災の記憶」という展覧会を開催していた。この展覧会はリアス・アーク美術館という所での東日本大震災に関する展示を紹介するというものだったようだ。 展示の内容は気仙沼を中心とした地域の東日本大震災の津波の被害を振り返るというものだった。津波の後に残された被害の模様を撮影した写真を展示していた。 震災によって発生した津波の被害は当時のニュースで何度も取り上げられていたが、詳細な説明書きとともにその被害の爪痕の写真を見ると、やはり精神に来るものがある。津波によって多くの建築物が破壊され、多くの家屋や自動車が流されていった。 重油が流出し、材木と混ざったことによって大規模な火災が発生し、そこにあったものは焼き尽くされた。流された家屋や自動車、漁船は流されずに残った建物や地形に残り、非現実的な風景を作り出した。津波に飲まれた建物には魚をとるための網が引っかかり、クリスマスツリーの装飾のような有様になった。津波の後に放置された魚介が腐敗して悪臭を発するどろどろの塊と化した。漁港の施設の天井に、波の浮力で発泡スチロールやビニールの容器が押し付けられ、白と青の混ざった塊が天井に出現した。線路の枕木が波の中を浮き上がり、その浮力で線路は飴のように捻じ曲げられた。土砂の流出によって地盤が沈下し、多くの土地が海中に没した。 当時、ニュースの映像を何度も見た記憶があるが、それでもなお、正気を絶する光景が数々の写真の中に記録されていた。 メディアというものには制作者の意図によって現実を切り取るという性質がある。当然ながら、それはテレビのニュース映像にも適用されるものであり、これらの写真はニュースの作者の目線とは異なる意図が込められていることであろう。

 ガレキは役に立たないものという意味合いがある。津波の被害で破壊された事物は、元は誰かの人生や生活とともにあった物で、決して役に立たないものではなかったはずである。そのような観点から、この展示では、津波の被害で発生した物をガレキと呼ばずに被災物と呼んでいた。展示の中には特定の被災物を取り上げたものもあった。それには地元の人の声を模したメッセージが添えられていた。そのメッセージというものは実際はフィクションであり、ガレキはガレキではなく、誰かにとっては思い出の品であったということを強調するために、被災者との語らいをもとに創作されたものである。 フィクションであるという点については物議を醸しそうに思われるが、被災物とともにあった人生を鑑賞者に想像させるのに強烈な効果があったことだろう。 これらの展示物を見て思うところがあったのか、鑑賞者の中にはしきりに目元をぬぐっていた方も見受けられた。

 展示によれば、気仙沼の地域は昔から大津波が繰り返し発生していたという。リアス式海岸は魚介の生育には都合がよく、優れた魚介類がとれるそうだが、津波の勢いを増幅するという欠点もあるそうだ。気仙沼の地域は古来から海の恵みを求めて人々が住み着いていたが、それは津波の被害の歴史とともにあるものだったそうだ。東日本大震災は想定を上回る未曾有の規模であったと喧伝されていたが、この展覧会では、大津波は昔から繰り返し発生しており、今回の被害も予想することは可能であったことが指摘されている。 整備された道路は津波にとっても障害物のない通り道となった。防潮のための松林は津波に引き抜かれて役に立たず、それどころか浮遊物として津波の被害を拡大することとなった。基礎の弱い建築物は津波で押し流され、自動車は津波の際には凶器と化した。避難所として活躍した施設も、あともう少しのところで完全に波に飲まれるところだったというものも少なくない。 展覧会の制作者は展示物を通じて海を意識した町作りの重要性を主張している。 実際のところ、津波の被害の軽減を第一義とした町作りというものはかなり困難なのではないかと私は思う。津波のための制度設計というものは必ずしも日常生活の利便性をも両立できるわけではないだろうと私は予想しており、また、予算の制約もあるだろう。金が何だ、人命には替えられない、と考える方もいるだろうが、金や日常の効率性もまた重要であることには違いなく、平常時に災害を意識した行動をとることは難しいものである。ただ、それでも展覧会の制作者の意図ができる限り社会に反映されることを私は望まずにはいられない。



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