思いつきで始めるブログ。漫画や音楽、アニメ、小説などの感想や、突飛な思いつきなどを書く。プログラミングが趣味だから、そういう話もしたいところ。一度失敗したのに懲りないのはいつものことだ。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
無意味に論説を振りかざすのが大好きなので漫画の紹介をしてみる。ネタバレは極力回避するが、起承転結の承辺りまでは書く可能性がある。紹介する漫画は下記のホラー漫画家・伊藤潤二氏の作品2作。ネタバレを白文字で隠しているため、そこにも注意してほしい。
山と海に囲まれた町・黒渦町では奇妙な現象が起きつつあった。町では不思議とつむじ風が頻発し、側溝の水が異常なまでに渦を巻く。その町に住む女子高生の桐絵は、恋人の秀一から町を脱出することを提案される。彼は「この町はうずまきに汚染され始めている」と呟く。桐絵は最初、その提案をあまり本気にはとらなかったが、異変は徐々に彼女たちの日常を蝕んでいく。
秀一の父親がうずまきをしたものに異常なまでに凝り始めたという話から物語は始まる。町の異常をいち早く察知した秀一と、町で連続的に起こる奇妙な事件に巻き込まれる桐絵を主人公に物語は進んでいく。町にあるあらゆるものがねじまがっていき、物語は思いがけない結末を迎える。
「うずまき」は伊藤潤二氏の漫画の中でも特に有名な作品の一つだろう。1998年から1999年まで連載されていたらしい。伊藤潤二氏は事物の緻密な表現が特徴的であると聞くが、この作品でもその技量を遺憾無く発揮している。「ジョジョの奇妙な冒険」のファンからは、第6部「ストーンオーシャン」の「ヘビー・ウェザー」の元ネタではないかと噂されているらしい (本当かどうかは知らないが。それともJOJOVELLER辺りに載っているのだろうか) 。
「うずまき」は題名のとおり、「うずまき」の形をしたものに発生する異常な現象や、「うずまき」という図形の持つ性質がもたらす恐怖を描いている。舞台は一つの町であり、その町は物語中で「うずまき」に侵食されていく。 主人公の桐絵は女子高生であり、美しい人物として描かれている。彼女の美貌はときに他者を魅きつけてしまい、そのために災難まで呼び寄せてしまう不幸体質の人物でもある。 ちなみに、もう一人の主人公である秀一は眼鏡をかけた神経質な美青年で、「異常なものに敏感に反応するが、何でもかんでも『うずまき』のせいにするために周囲からの理解を得られない (本当に何でもかんでも『うずまき』のせいなのだが) 」というホラーによくいる感じの人である。
恐ろしいものや異常なものを絵で表現しようとすると、しばしば恐怖を通り越して滑稽さを感じてしまうことがある。「うずまき」にも残念ながらそのようなところがないわけではない (特に髪の毛や蝶族の話が) 。 それでもやはり、伊藤潤二氏の異常なものに対する緻密な表現は読者に強い印象を与えるものになっている。具体的には言わないが、特に、異常な姿をしたものの群れの表現や、異常な構造体の表現は、一度見れば目に焼き付き、忘れることのできないものになるだろう。
最初の方の話は家庭や学校、病院といった身近な世界で起こった出来事を扱う。しかし、事態は徐々に異常さを積み重ねていき、物語はあるときを境に完全な転機を迎える (具体的に言えば第14話) 。それ以降は怒涛の展開であり、物語の結末部はまさに圧巻の一言である (その結末の後に「特別編」が続くため、やや拍子抜けしてしまうのだが) 。 「うずまき」は点を回転させたり、線をねじったりするだけで生じてしまう。「うずまき」を目で追えば、目玉はくるりくるりと回り、最後には中心にひきつけられる。「うずまき」がもたらす奇妙な世界を皆様にも味わっていただきたいところだ。
余談だが、この本の裏側の説明文には「閉塞感渦巻く今日の格差社会を予見した
」などと書かれているが、この作品に社会的な要素は含まれていない。佐藤優とかいう評論家のコメントが巻末にくっついており、一見したところ、よく分からない番付とか心理学の図とか佐藤氏自身の写真とかが載っているが、特に読む価値はないと思われる。私は読みたくないので読んでいません。読んでもいないのに非難するのはいかがなものかと思われるかもしれないが、私は作品を社会やら政治やらに絡めて語るのが大嫌いなのだ。
沖縄旅行にやってきた忠と華織は、忠のおじの別荘に宿泊するが、臭いに敏感な華織の性質が原因でちょっとした口論になる。口喧嘩の果てに別荘を飛び出した華織は叢の中で悪臭を発する奇妙な生き物に遭遇する。その後、悪臭を洗い流すため、華織は別荘に戻って入浴するが、別荘の中に入り込んだ件の謎の生き物に襲われる。忠は何とか生き物を仕留めることに成功するが、その正体は魚に機械の足がくっついたような奇怪な生物だった。忠は初めは珍しい生き物だと思い込むが、その見込みは裏切られることになる……。潔癖症の女、その恋人、発明家が取り巻く奇妙な物語は、多くの謎を残して終焉を迎える。
第2巻には特別に2話の短篇が収録されている。一つ目は「大黒柱悲話」。新築の家を手に入れた家族の身に起こった突然の悲劇を描いた作品である。悲劇が起こった経緯については話すと長くなるらしい。もう一つは「阿彌殻断層の怪」。地震によって生じた断層から奇妙なものが見つかった。それは人の形をしたたくさんの穴である。どこまで続くかも見当のつかないその穴を見に多くの人が訪れた。そして、そのような人々の中には、「自分の穴」を見つけたからそこを訪れた人もいたのだ。テレビの映像から自分の姿にぴったりの穴を見つけ、そこに入りたくなって来た人々が集まってきたのである。果たして、穴はどこに続いているのか、その答えは結末に明かされる。
伊藤潤二氏の作品をもう一つ。私は実は「ギョ」と「うずまき」の他には「富江」くらいしか読んだことがない。この作品は、氏の緻密な作画による気体の表現が、作品中の世界の異様な有様を雄弁に語っているのが印象的だ。この漫画を原作としたアニメ作品があるらしく、主人公が原作とは異なるそうだが私は見たことがない。原作の主人公は忠で、アニメ版の主人公は華織である。主人公が性別が異なれば作品の展開が丸っきり異なってしまうと思うのだが、どんなものだったのだろう (女性だからこそ悲惨な境遇が似合うのであり、男性だからこそ女性を追いかけ続ける役に適していると私は思うのだが) 。
実は、「ギョ」は私が最初に読んだ伊藤潤二氏の作品であり、そのときは氏の作品の世界とその表現に初めて触れてかなり衝撃を受けた。今読んでみると、ゾンビもの、抗体を持つ主人公、物知り博士、旧日本軍、謎のサーカスと怪しい要素がてんこ盛りの作品である。ただ、それもこの作品の魅力には違いない。
作品で描かれた中で最も印象的だったのは、怪異ではなくむしろ主人公の忠の華織に対する思いだった。華織は悪臭を極度に嫌うのが玉に瑕の美女なのだが、陸を歩く魚に始まる奇妙な現象によって数々の災難に遭うことになる。悪臭を放つ怪物に対して華織がヒステリーのような振る舞いをしていたのにも関わらず (華織がそのような言動をとるのは仕方のないことではあるが) 、忠は災厄の度に華織を助けに行こうとする。作中で最初は口喧嘩をしていたとはいえ、忠のこの行動にはなかなか思うところがある。
また、この作品の主役となる怪現象については、作中でその起源に関する説 (日本軍の細菌兵器に由来するという説) が挙げられているが、どうもそれだけでは説明のつかないような描写が多いように感じられる。作中でもその説は完全に肯定されているわけではない。機械と細菌という科学的な要素で説明されているが、様々な描写を見る限りでは、その正体や起源は科学的には説明のつかないものだろう。金属でできている上に螺子も溶接の跡もないという歩行機械の起源、感染者を引っ張る腕や炎の中に見えた影の正体、感染者たちが見せた意思のようなものの正体など、数多くの謎が作品中に散りばめられているが、明確な答えは与えられていない。これらの謎についてじっくり考察してみても面白いかもしれない。
第2巻の巻末のおまけの2話も謎多き作品である。「大黒柱悲話」は……何なんだろうな、うん。 「阿彌殻断層の怪」の方は短いながら「ギョ」と負けず劣らずの名作だった。作中では主人公の夢という形で人型の穴の正体に迫る逸話が語られている。とはいえ、夢で語られているものは真相とは限らないし、仮に真相だとしても、まだ語られていない部分があまりにも多すぎる。ただ、最後の1ページの放つ余韻のおぞましさを考えれば、深くは知らない方がいいだろう。知ったら夜に眠れなくなるに違いない。
1. 無題
ちなみにホラー漫画家という肩書ではありますが、正直言って怪奇やSFを扱った
捻りのあるシュールなギャク漫画家として見た方がしっくりきます
特にうずまきはあからさまに狙った描写が多いので、恐怖を通り越して滑稽さを感じるのは当たり前です
なんせ狙ってやってますので
彼の意図を伝えやすい媒体に比較的合致したのがホラーだったわけです
Re:無題
嬉しいです。
伊藤潤二氏がギャグ漫画家かどうかという点について、私には何とも言えませんが、
少なくとも「大黒柱悲話」と「うずまき」の髪の毛の話はギャグにしか見えませんでした。