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孤譚

思いつきで始めるブログ。漫画や音楽、アニメ、小説などの感想や、突飛な思いつきなどを書く。プログラミングが趣味だから、そういう話もしたいところ。一度失敗したのに懲りないのはいつものことだ。

マンガ図書館Z (旧Jコミ) よりおすすめの作品4選「フルイドラット」「モンスターキネマトグラフ」「蝋燭姫」「寒くなると肩を寄せて」

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マンガ図書館Z (旧Jコミ) よりおすすめの作品4選「フルイドラット」「モンスターキネマトグラフ」「蝋燭姫」「寒くなると肩を寄せて」

はじめに

 無意味に論説を振りかざすのが大好きなので漫画の紹介をしてみる。ネタバレは極力回避するが、起承転結の承辺りまでは書く可能性がある。ネタバレを白文字で隠しているため、そこにも注意してほしい。今回紹介するのは「マンガ図書館Z」で無料で公開されている4作である。

 「マンガ図書館Z」は以前は「Jコミ」「絶版マンガ図書館」などという名称だった。漫画家の赤松健氏が率いるJコミックテラスが運営している。Jコミは絶版となってしまった漫画を無料で公開し、広告収入を全てその漫画の作者のものとするというサービスである。 現在、漫画の海賊版がインターネットでは横行しているらしく、Jコミはその現状を打破するために設立された。出版物は出版社が保護してくれるが、絶版漫画は保護の対象外であるため、海賊版の横行に太刀打ちする手段がほとんどないそうだ。そこで、絶版漫画を無料で見られるようにし、海賊版の出る幕を無くしてしまおうというのがJコミが設立された目的である。海賊版がいくら流行ったところで作者には一銭の利益も入らないが、Jコミならば広告収入が作者に入るという仕組みである。現在、システムの改善や運営体制の変化などにより名前やURLがいくらか変更されて今に至る。 絶版漫画以外にもアマチュア漫画家が自ら作品を投稿して無料で公開するということも行われているらしい。単行本化されていない作品が公開されている例も多数ある。

 公開されている作品はギャグファンタジーホラー恋愛ものライトノベル (!) 、TRPGのルールブック (!!) 、R-18などと様々で、 (20代の私から見ると) 古い漫画が多い。絶版漫画中心であるため当たり前であるが、何となく絵柄が受け付けないという気分になってしまい、私自身が好きなジャンルが狭いというのも相まって、結局あまり読んでいなかったりする。今回紹介するのは私にとっても面白いと感じた作品であり、是非とも多くの方に読んで、ついでに広告をクリックしていただきたいと考えている。

 それにしても、「マンガ図書館Z」をぼんやりと眺めていると、絶版漫画がこれほどにも多いのかとこの世の無常に涙が出てくることだなあ。

目次

  1. フルイドラット
  2. モンスターキネマトグラフ
  3. 蝋燭姫
  4. 寒くなると肩を寄せて

フルイドラット

坂木原レム

内容紹介

 三流雑誌の記者として精神的にも金銭的にも満ち足りない日常を送っていたサイネンは町中で偶然に津軽訛りの奇妙な女・ミズキと出会う。猫に追われて電柱をよじ登る、泥だらけの衣服を着ているなど、ミズキはあまりにも「訳あり」な空気を漂わせていたため、サイネンはファーストフード店でミズキに話を聞こうとする。しかし、ミズキは急にサイネンに血を出すようにと意味不明なことを頼んでくる。困惑するサイネンの前に現れたのは保健所の所員に化けた謎の組織の男たちだった。男たちが拳銃を構えてミズキを捕獲しようとする中で、ミズキはサイネンをガラスコップの破片で切りつけ、傷口を自らの頬に押し付けた。すると、ミズキは瞬く間に鼠に変身し、壁を伝って男たちの目の前から姿を消したのである。

 この二人の出会いが物語の始まりだった。「ネズミオンナ」の発見は、真実を探求し理念を追求する研究員、ある秘密を抱えたアイドル、過去の失敗によりアイドルを必死で守る女マネージャー、異常なまでにゴシップに執着する記者、恋する相手を間違えた記者など、多くの人間を巻き込む事件へと発展する。二人の逃亡劇の結末やいかに。

感想

 この作品は、「ネズミオンナ」の謎の追求と、強大な権力をもつ組織からの逃亡を主軸としたものである。多くの人がそれぞれの思惑により謎めいた「ネズミオンナ」=「フルイドラット」に関わっていき、物語はある結末を迎える。主人公のサイネンは強力な力を持つ人物というわけではなく、自身の惨めな現状と持ち前の正義感の間に揺れる人物として描かれている。サイネンは秘密とナイスバディを抱えるミズキに対して様々な意味での下心を抱きもするが、それでもミズキの幸せを望み、知恵を振り絞って状況の打開を模索する。私はサイネンの弱さと強さを併せ持つ性格に好感を抱き、最初に読んだときは二人の逃亡劇の成功を祈っていたものだった。

 また、この作品は主人公格の二人以外にも様々な人物が登場する。他の登場人物もそれぞれの背景、それぞれの信念を持ち、物語の中で交錯していく。主人公組以外の活躍もこの作品の見所である。他にも、謎めいたフルイドラットにまつわるテキストが作中で語られ、それが作品のフレーバーとなって独特の雰囲気を醸し出している。私としては主役二人の関係性が最も面白く感じられたが、フルイドラットの秘密もこの作品の重要な要素に違いない。 見所の多い作品であり、Kindle版もあるため、興味のある方は是非ともご一読することをおすすめする。

モンスターキネマトグラフ

坂木原レム

内容紹介

 主人公のマミヤはかつては戦場にいた。女性が何故兵士として活躍したかといえば、それは彼女が興奮すると怪獣に変身するという体質を有していたためである。奇妙な体質のために同僚からは疎まれていたが、その中でもある一人の兵士と恋に落ちる。しかし、恋人は戦死し、戦後も周囲から疎外され、体質が原因で職場をクビになり、身の置き場を無くし、自殺を考えていた頃、マミヤの前に現れたのは映画制作者だった。こうしてマミヤは自らの体質と悲しげな瞳を見込まれ怪獣映画に出ることとなったのだが……。果たしてマミヤは幸せな居場所を手に入れることができるのだろうか。

感想

 この作品はフルイドラットの作者のデビュー作であるらしい。女性に変身する鼠の話の前には、怪獣に変身する女性の漫画を制作していたということだ。登場人物、ストーリー、扉絵と特撮を意識した作風である。私は特撮には詳しくないためよく分からないが、詳しい人が読めばより面白く感じられるかもしれない。

 この作品は怪物としての側面を持つ女性による人々との交流の描写に重きを置いている。悲劇的な過去や周囲からの疎外によって行き場を無くした主人公は、映画制作を契機に居場所を見つけ、彼女の人間としての側面の幸福が充実していく。途中からキネマトグラフが物語から関係なくなり、むしろ恋愛ものの要素が強くなるが、人間に似た何かと人間が交流する話が好きな方に特におすすめの作品である。

蝋燭姫

鈴木健也

内容紹介

 舞台は中世ヨーロッパ。政治闘争に敗れたスクワ姫は女子修道院に幽閉されることになった。スクワ姫の元に残されたのは侍女・フルゥだけであった。フルゥは下層の生まれで、腕っ節はあるが、その振る舞いは下々のそれである。大好きな姫が元の暮らしを取り戻せるように、そして、その高貴なあり方を守り抜くために努力するもなかなか上手くはいかない。そんなあるとき、フルゥの前に馬に乗った男が現れた。彼は侯爵の使者であり、スクワ姫を救いに来たのだと言うが……。

感想

 この作品は王位を巡る争いに巻き込まれた姫と侍女の二人による、百合の花咲く血みどろの戦いを描いたものである。スクワはその血筋のため、フルゥは姫を守るために動乱の渦中に置かれることとなる。物語の冒頭では、スクワは貴人らしく感情を見せない澄ました態度をとり、フルゥはスクワのその高貴さに心底惚れている。しかし、物語が進み、冒険が始まると、二人の関係性や振る舞いは目に見えて変化していく。この二人の変化がこの漫画で最も面白いところだろう。女の子同士の絡みが好きな方は私以上に楽しめるかもしれない。

 内容紹介ではあまり触れていないが、この作品では主役の二人以外にも様々な人物が登場する。フルゥの友人となる修道女・マロノー、フルゥに妙に突っかかる修道女・ヤージェンカ、武勇に優れた騎士・スェイなどだ。彼らはそれぞれの思惑、それぞれの願望から主役二人に関与し、影響を与えていく。登場人物たちは策謀に巻き込んだり巻き込まれたりしながら、ときには誰かに刃を向けることとなる。この策謀の渦もこの作品で重要な要素だろう。

 この作品の結末は

寒くなると肩を寄せて

鈴木健也

内容紹介

 「おしえて! ギャル子ちゃん」で有名な作者の短篇集。番外篇を含めて8篇収録されている。

 「水槽の街」は機械の発展した閉塞感に満ちた世界を舞台にした作品。少年・ヨウは浄水工場で働く少女・ユィを自宅での食事に誘う。ユィは食事の最中、何故か勧められるまで水を飲もうとしなかった。ヨウと別れた後、ユィは家に着くと、せっかくの料理を吐き出し、そのまま寝転んでしまう。家族のいないたった一人の家の中、その床には怪しげな物品とともに魔法陣が……。ある事情から世界にいられなくなった少女の末路を描く。

 「虫の味がする」は現代の大学生を主役とした作品。竹内青年の憧れの人・園田は虫を好んで食べるらしいという噂があった。ある機会からご馳走すると彼女の家に誘われた竹内は、おっかなびっくり園田の家に向かうのだが……。甘酸っぱい、というよりも虫の味がするかもしれない物語。

 「ジゼルとエステル」は二人の少女の離別を描いた作品。ジゼルとエステルはサーカスの歌姫でシャム双生児である。ジゼルは自分たちが引き裂かれることはありえないと信じていた。だが、二人の心は既に行き違えており……。特別な双子の別れをジゼルの視点で描く。

 「ロズリーヌ・フラウの肖像」はヨーロッパが舞台。ロズリーヌの夫・エミールは情けない性格の画家であり、適切なモデルがいないと仕事ができない。聖アガタの絵を注文されるも仕事を投げ出していたエミールに対し、ロズリーヌは高圧的な態度でエミールを絵の仕事に向かわせる。求婚を断られたクィンティアヌスの憎しみをぶつけられた聖アガタのモデルに彼女が選んだのは……。ある力学の働く夫婦の奇妙な関係性に注目しよう。

 「淑女はドレスに着替えない」はまたもや恋の物語。店で働く女性・フォリーをやたらとブスだブスだと言う少年・アンリに対し、周囲の老人たちはアンリに女についての馬鹿な話を始める。顔を曇らせるアンリの前に現れたのは……。少年の初々しい反応が楽しめる作品。

 「少女と言うより痴女だった」は現代を舞台にしたファンタジーめいた何か。アパートの散らかった部屋に住む、頭に角の生えたジャージ姿の少女はレンタルビデオ店の店員の女性と仲良くなりたい。そのために会話のきっかけを探そうとするがあまり上手くいかない。落ち込んでいる少女の前に現れたのは、やはり同じように頭に角の生えたジャージ姿の父親だった……。現代を舞台とした現代的な少女の物語。ちなみに単行本の表紙の少女がこの作品の主人公である。

 「友達だなんて思ってないんだ」は現代の中学生を主人公とした作品。落ち着いた身なりの学生・芹沢は同級生の工藤とレンタルビデオ店で出会う。工藤がアダルトビデオを借りに来たが断られたと言うと、芹沢は濡れ場のある映画と言ってわざと全くそうでもないビデオを渡す。その後、芹沢の教室に工藤がやってきて……。性格の違う二人の友情を描いた作品。ちなみに番外篇はこの短篇の登場人物による4コマ漫画である。

感想

 この作品は「蝋燭姫」と作者が同じだが、長篇ではなく短篇集であり、陰謀渦巻く世界が舞台というわけでもなく、作品の舞台・ジャンルも様々である。

 どの作品も異なる面白さがあるが、私が最も好きなのは「ロズリーヌ・フラウの肖像」である。私はこの夫婦の関係性の描写が好きで、夫婦の関係が一時だけ逆転した結果、夫は妻の特別な一面を垣間見るが、それによる夫の反応が面白かった。夫の画家としての気質もまた面白い要素である。 次に好きなのは「水槽の街」の鬱屈とした展開と描写で、その次に「ジゼルとエステル」が好きである。「少女と言うより痴女だった」の現代的なものと幻想的なものの組み合わせにも格別な面白さがあった。前に紹介した3作にも言えることだが、このような作品が絶版になっていたことが不思議でならない。



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