思いつきで始めるブログ。漫画や音楽、アニメ、小説などの感想や、突飛な思いつきなどを書く。プログラミングが趣味だから、そういう話もしたいところ。一度失敗したのに懲りないのはいつものことだ。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
無意味に論説を振りかざすのが大好きなので漫画の紹介をしてみる。ネタバレは極力回避するが、起承転結の承辺りまでは書く可能性がある。ネタバレを白文字で隠しているため、そこにも注意してほしい。今回紹介するのは「マンガ図書館Z」で無料で公開されている4作である。
「マンガ図書館Z」は以前は「Jコミ」「絶版マンガ図書館」などという名称だった。漫画家の赤松健氏が率いるJコミックテラスが運営している。Jコミは絶版となってしまった漫画を無料で公開し、広告収入を全てその漫画の作者のものとするというサービスである。 現在、漫画の海賊版がインターネットでは横行しているらしく、Jコミはその現状を打破するために設立された。出版物は出版社が保護してくれるが、絶版漫画は保護の対象外であるため、海賊版の横行に太刀打ちする手段がほとんどないそうだ。そこで、絶版漫画を無料で見られるようにし、海賊版の出る幕を無くしてしまおうというのがJコミが設立された目的である。海賊版がいくら流行ったところで作者には一銭の利益も入らないが、Jコミならば広告収入が作者に入るという仕組みである。現在、システムの改善や運営体制の変化などにより名前やURLがいくらか変更されて今に至る。 絶版漫画以外にもアマチュア漫画家が自ら作品を投稿して無料で公開するということも行われているらしい。単行本化されていない作品が公開されている例も多数ある。
公開されている作品はギャグやファンタジー、ホラー、恋愛もの、ライトノベル (!) 、TRPGのルールブック (!!) 、R-18などと様々で、 (20代の私から見ると) 古い漫画が多い。絶版漫画中心であるため当たり前であるが、何となく絵柄が受け付けないという気分になってしまい、私自身が好きなジャンルが狭いというのも相まって、結局あまり読んでいなかったりする。今回紹介するのは私にとっても面白いと感じた作品であり、是非とも多くの方に読んで、ついでに広告をクリックしていただきたいと考えている。ちなみに、昔は成人向け作品も全篇無料で読むことができました。悲しいなあ。
それにしても、「マンガ図書館Z」をぼんやりと眺めていると、絶版漫画がこれほどにも多いのかとこの世の無常に涙が出てくることだなあ。
無意味に論説を振りかざすのが大好きなので漫画の紹介をしてみる。ネタバレは極力回避するが、起承転結の承辺りまでは書く可能性がある。今回も藤田和日郎氏の作品を紹介する。ネタバレを白文字で隠しているため、そこにも注意してほしい。 実は私は「藤田和日郎短編集①」の方を読んだことがない。何故先に②から手をつけたのかと言えば「空に羽が…」を読むためである。 この短篇は筋肉少女帯のある楽曲が発想の元になっていると聞いており、その話を確かめるためにこの単行本を手に取ったのである。
藤田和日郎氏の短編集。幻想的な短篇漫画5篇を収録している。作者による各短篇についてのエッセイも収録されている。
「瞬撃の虚空」はレーベンフック少佐と呼ばれる奇妙な眼鏡をかけた軍人が一瞬の体術で軍隊を壊滅に追い込む場面から始まる。一方、平和な東京の中流家庭に育って物足りない生活を送る淳一少年の家に突如アメリカの軍人たちが訪れる。彼らの目的は淳一の祖父をある作戦に参加させることだった。淳一は耄碌した老人にしか見えない祖父に何の用かと疑問に思いつつも、祖父の要望により米軍と同行する。淳一は目的地に到着するまでに祖父が別人のような風格を身につけていることに気がつく。淳一の祖父には淳一の知らない恐るべき過去があったのだ……。老人と彼の過去が生み出した怪物との一瞬の格闘に、少年は何を見るか。
「空に羽が…」は強大な力で女王が国を支配する世界の物語。女王の暴虐に耐えかねた人々はレジスタンス活動を行うも、女王は自身が操る天から降り注ぐ災いの力で反乱者を一掃していた。そんな中で、丘の上で一人、片目が虫の目のようになっている男が機械を作っていた。この男は人々から「虫目」と呼ばれていた。人々は彼を邪法を操る不吉な男として忌み嫌い、見張りとして役立たずの少女・ゾナハを派遣する。ゾナハは男の気風に触れ、見張りの役目を無視して「虫目」と打ち解ける。一方で、人々は特別な術を使う三人の英雄を呼び、女王打倒の決意を固めていた。しかし、人々は女王の真の力への対処の必要性を知らなかったのだ……。理解されることなく闘っていた名も無い英雄の末路を描く。
「ゲメル宇宙武器店」はアルミニュームが極めて珍しく美しい物質として扱われる宇宙を舞台としている。我らが地球で、オカノ・コースケが野球部のピッチャー兼生徒会長に片思いの相手をかっさらわれ、戦いを挑むことなく失恋に涙していた頃、地球に巨大な宇宙怪獣が襲来した。地球の破滅を目前にして、コースケが家から持ち出せたのはアンパンと貯めていた大量の一円玉だけであった。そんな情けない彼の元に現れたのは、宇宙を股にかけて活躍する女武器商人・ゲメルだった。ゲメルは大量のアルミニュームに惹かれ、コースケに武器を売りにやってきたのだ。怪獣は宇宙的に見ればありきたりのものと見え、ひ弱な男でも特別なクスリと武器を与えれば何とかなると踏み、ゲメルはコースケに1円玉と引き換えに武器を売りつける。しかし、怪獣は彼女たちの想像以上に強大で……。今まで敗北してきた男は危機の中で、己に足りない物が何かを悟る。
「美食王の到着」は演劇のような体の作品で、単行本の表紙の少女・イーズーンはこの作品の主人公である。この国一番の踊り子であるイーズーンは国王の前で踊ってみせるが、それは復讐のためであった。国王はどんなものでも食べ物にする魔法の包丁を持っており、イーズーンの姉をその包丁で調理して食べてしまったのである。暴虐な国王は食道楽のために人々から食べ物を取り上げ、それを貪る毎日を送っていた。イーズーンは復讐のため、自らの体に毒を染み込ませ、国王に食べられる日を待っていた。イーズーンの踊りを見る国王の隣には、とぼけた顔つきをした男がいたが、その男は美食王、つまりは美食家の中の美食家と称されていた。国王はこの美食王に自らの食道楽の程を認めてもらおうと考えていたが、美食王の心中にはある思惑が……。結末では衝撃の真実が語られる。
「帯刀石仏」は藤田和日郎氏がデビューする前に制作された作品。ある村に妖が現れるようになり、人々は恐怖に怯えていた。そんなとき、村に旅人が訪れる。旅人は妖の話を聞くと、ある望みを叶えてもらう代わりに妖退治を引き受け、刀を構える姿勢をとり始めた。人が話しかけても、雨が降っても、彼は構えをとったまま動かない。動かない旅人の世話をしに来た女は、言葉すらほとんど発さない彼と奇妙な会話を交わす。そしてある日、とうとう妖が旅人の元に現れ……。
「瞬撃の虚空」では老人が人間離れした格闘を見せる。この漫画の見所は当然ながらその戦いの描写である。しかし、老人の意志とそれに応えるひ弱な孫の姿、孤独な怪物との決戦など、人間模様の描写もまたこの漫画の面白いところである。私は再読してから面白さをより深く理解できた。
「機械」が収録されている。
「空に羽が…」は、筋肉少女帯のファンの間では「機械」という楽曲がその作品の発想の源であったことが知られている (作者のエッセイによれば、タニス・リーという女流作家の作品や、「未来惑星ザルドス」という映画も発想の元となったらしい。私はどちらも見たことがないのだが……) 。「機械」は筋肉少女帯のアルバム「キラキラと輝くもの」に収録されており、人々を救うための機械を作っていた狂った男とその男の言葉を唯一信じた女の物語を歌っている。この楽曲の結末は完全な幸福とは言いがたいものであった。そして、「虫目」の抱いたものは空想では無かったとはいえ、「空に羽が…」もまた苦々しい味を残して終幕する。彼は孤独な満足のために時間を費やし、そして、彼の成し遂げたことを完全に理解したのは一人の少女だけだった。それでも、誰にも愛されなかった男にたった一人でも理解者がいて、その意思を継いでくれたことは、彼にとって救いであったことを祈りたい。筋肉少女帯のファンは必読の一篇である。
「ゲメル宇宙武器店」はギャグの色合いが強い短篇である。宇宙武器の珍妙な名前や外見、登場人物たちのコミカルな振る舞いのために、私は物語についていけないところがあった。それでも、貧弱な男が自らに足りないものを自覚して勇気を見せる場面には見るべきところがあったと思う。
「美食王の到着」は奇妙な空気の作品である。イーズーンの背景や美食王の過去など、シリアスな設定もある一方で、演劇風の語り口調、ナレーターに言い返す登場人物、美食王の風体や振る舞い、結末での一言などにより、読後は喜劇のような印象を受ける。イーズーンの過去や毒娘となるまでの過程は凄惨としかいいようがないのだが、美食王の活躍により物語は完全なハッピーエンドを迎えることになる。個人的にはかなり面白い作品だとは思うが、かなり変テコな印象が強い作品で、どう評価したらいいのか私にはよく分からない。
「帯刀石仏」は面白い作品ではあるのだが、作者のデビュー前の作品であるだけあって、一つの作品として見ると物足りなさを感じる方もいるだろう。しかし、私としては作者の発想に驚くばかりであった。藤田和日郎氏のファン向けの作品である。
無意味に論説を振りかざすのが大好きなので漫画の紹介をしてみる。ネタバレは極力回避するが、起承転結の承辺りまでは書く可能性がある。今回紹介する漫画は「うしおととら」が最近アニメになった藤田和日郎氏の作品である。ネタバレを白文字で隠しているため、そこにも注意してほしい。
梟の姿をした怪物とそれを追う四人の人間ドラマ
物語は「むかし むかし」という言葉から始まる。
むかし、むかし、あるところに恐ろしい鳥が住んでいた。怪物はフクロウの姿をしていて、その怪鳥に見られた生き物は死んでしまう。討伐しようとした猟師たちは皆死んでいったが、唯一、鵜平という猟師が元妻を犠牲にして撃ち落とすことに成功する。しかし、怪物にとどめをさす前に米軍に怪物を奪取されてしまう。怪物はアメリカにより<ミネルヴァ>と名付けられた。
それから時が経ち、あるとき、アメリカの空母が岸に突っ込むという事故が発生する。事故を起こした空母を調査に来た者たちが見たのは死体の山と空の鳥籠であった。その後、東京に現れた邪眼により、東京は死の街と化した。テレビ映像越しにすら力を及ぼす邪眼の魔力により、東京の都市機能は停止した。この状況を打開するため、CIAのエージェント・ケビンと陸軍特殊部隊のマイクは、怪物を一度倒したかの猟師・鵜平に会いに山村に訪れる。二人の前に現れたのは鵜平の娘であり、祈祷師の輪だった。鵜平は輪を通してでないと二人と話をしないという。一方で、輪と鵜平には血の繋がりがなく、輪は母を犠牲にした鵜平を父とは見なしていなかった。輪に怒鳴られると鵜平はあっさり頼みに応じ、<ミネルヴァ>討伐に立ち上がる。かくして邪眼を倒すために東京に向かった四人だが……。
藤田和日郎氏と言えば、強烈な妖怪の描写と優れた人間ドラマで有名な少年漫画「うしおととら」の作者である。この作品もまた強烈な邪眼の描写と人間ドラマに秀でている。
単行本のページをめくると、最初に目に入るのは邪眼の恐ろしさを示す描写である。猟師たちが絶望の中で血を吹き出して死亡するシーンに始まり、最終的には平和で騒がしい東京が沈黙と死の恐怖に包まれた街に変貌する。その後は四人の主人公の登場と続く。<ミネルヴァ>の当て馬に殺されるとしか思えない嫌な性格の銃の名手たちの登場が間に挟まり (案の定死亡する) 、その後に四人の活躍劇が始まる。「うしおととら」では妖怪による凄惨な殺戮や、惨たらしい人々の死に様が描かれていたが、この作品でのそのての描写も同様に印象的なものとなっている。
主人公の四人は日米両軍と協力して邪眼に立ち向かう。鵜平は昔気質の猟師であり、目元と心中の恥を隠す仮面と寡黙な性格のために輪との間ですれ違いが生じてしまっている。マイクはこれまた軍人気質の人物で、鵜平と怒鳴り合いながらも、鵜平の無茶な行動を助力する。ケビンはある秘密の使命を抱え、暗澹たる過去を背中に<ミネルヴァ>討伐に参加する。輪は超自然の能力を使って戦いながら、父親との間の不和を乗り越えていく。この作品では四人がそれぞれの背景を持ちつつも互いに歩み寄り、互いへの理解を深めていく過程が描かれている。
この作品のもう一つの特徴は、<ミネルヴァ>が単なる無慈悲で冷血の怪物として描かれていないところである。邪眼にはある弱点があり、作中ではそれを主人公四人が利用するのだが、それは恐るべき怪物にしては意外なものである。怪物の最期の後、輪は邪眼の末期の思考を教えてくれる。個人的には怪物をめでたく倒してチャンチャンでも良い気がするのだが、<ミネルヴァ>を単なる悪魔で終わらせないという意味では、作品に深みを与える要素であろう。
この「むかし むかし」の物語はある大団円を迎える。どのような結末を迎えるか、是非とも多くの方に読んでいただきたいものだ。